カルトなフィンガーボートの世界・エクストリーム

by Michael Brooke

ランス・マウンテンが自家製のミニデッキをトニー・ホークとマイク・マクギルに見守られながら、キッチンの流しでスケートしてる映像を収録した1985年制作のパウエル・ペラルタの映画「フュチャー・プリミティブ」にて、初めてフィンガーボードを観た方は多いのではないだろうか。

勿論、それまでに自家製ミニデッキを制作した人は沢山いたかもしれない。しかし、この映画のワンシーンは確実にランスを第一人者として世間に広めたと言っても言い過ぎではないと思う。

1980年頃にプラスチック製のスケートボード・キーホルダーを作り始めた会社が幾つか出たが、どれも大きなビジネスにはならない。しかし、1990年後半「テック・デッキ」が業界に登場して、フィンガーボードの世界は大きく変わり始める。

Martin Ehrenberger founder of Blackriver

当時、各スケートボード会社は自社のロゴなどをライセンスしており、そこに目をつけたテック・デッキの商品は、子供やコレクターの間で人気が爆発。全米で好セールスを上げた。

誰もがフィンガーボードを忘れた頃、一人の男がフィンガーボードに更なる可能性を確信。その男の名前はマーティン・エーレンバーグ。マーティンは1999年に会社「Blackriver ・ブラックリバー」を立ち上げ、プロ使用のフィンガーボードやランプなどを制作し販売始めた。

価格はこれがおもちゃの値段などではなく、デッキ$100~、コンプリートに至っては$200~と実物のスケボー並かそれ以上の金額で販売し始めたのだ。トラックだけの販売もおこなっており、トラックは$45~。唯一デッキテープだけは普通のデッキテープと同じ価格帯で販売。

Fingerboard park features on display at Blackriver''s store in Berlin

この記事を読んでる皆さん同様、フィンガーボードの価格を見ての印象は「誰が買うのだろうか」でしたが、実際には多くの人に愛され、しっかりとしたムーブメントを起こしたのだ。

一番最初にフィンガーボードの事を聞いたのは、カナダのバンクーバーでスケートボード・ショップ「ロングボード・ラボ」を営むリック・テッズ氏を通して。彼が幾つかのブラックリバー製のフィンガーボードとランプなどを実際に店に仕入れたのだ。そしてその時、彼にトレードショーでマーティンを探すようにと言われました。

ようやく実際にマーティンに会った時に聞いた初めての質問は「なんでフィンガーボードなの?」だ。

マーティン曰く、「フィンガーボードを通して、違うディメンション(世界)でスケートボードを楽しめるんだよ。スケートボードと同じようにフィンガーボードを完璧にコントロール出来るようになると最高の気分だし、なにより楽しいんだ。それから何処でも出来るのが良い。天候などもまったく気にする必要がないからね。」

CW_April16_Fingerboard03

ショーでは、フィンガーボードに戸惑う人を多く目の当たりにしたが、マーティンは丁寧に熱意を持って説明していた。彼が心底フィンガーボードを愛してるのを感じ取れた。

不思議な事だが、フィンガーボードをするのはスケートボードに乗らない連中より、普段は普通のスケートボードに乗ってる連中が圧倒的に多いのだ。フィンガーボードはスケートボードの延長であり、実際マーティン自身も30年以上スケートボードに乗っている。

「フィンガーボードを始めると、どれだけ楽しいかすぐに判ってくる。そうなると当然プロ用の装備が欲しくなる。この真理はスケートボードのみならず、音楽でもなんでもそう。ブラックリバーはそこに目をつけたのだ。

2016年5月、ドイツのシュヴァルツェンバッハにてブラックリバーの主催する第9回フィンガーボード大会が開催された。参加者は7歳~32歳で、総勢100名以上が世界20カ国から参加した。

「これはお遊びなんかじゃなくて、シリアスなコンペティションさ。参加者のほとんどが実際にプロだし、トリックなどは完璧に出来るよう、装備やセットアップは入念に行われる。会場では7つのスケートパークがコースとし用意され、会場をDJが盛り上げる。ベストトリック賞もあるんだよ!動画サイトにいろんな人が映像をあげてるので、ぜひみてくれ」とマーティンは笑顔で語った。

それではどのようにしたらプロのフィンガー・スケートボーダーになれるのかマーティンに伺ってみると「基本スケートボードと一緒で、人ができないトリックを毎回ミスらず決められる事。そういう選手にキッズは達は熱狂し、サインや写真などを欲しがる」

Vancouver''s Longboarder Labs and CalStreets hosted a fingerboard jam in late 2015 that attracted dozens of enthusiasts photo:Rick Tetz

プロのフィンガー・スケートボーダーがいるという事はもちろんプロのフィンガーボード・ツアーも存在する。過去16年ツアーをおこなってるブラックリバーは2008年に12名のプロ・フィンガー・スケートボーダーを引き連れてアメリカをツアーした。本当のスケートボードのツアーと違うところは大きなトレーラーに装備を乗せて移動しなくて良いところくらいで、あとはほとんど一緒。選手は世界中を旅するのです。ノキア、キャノンなど大手会社のコンベンションでのパフォーマンスのほか、韓国ではテレビにも出ました。

フィンガーボードのグラフィックをデザインするアーティストも存在するし、フィンガー・スケートボード・マガジン、フィンガー・スケートボードのグルーピーと、スケートボード界とまったく同じものが実在する。フィンガーボードの世界を目の当たりにしたが、依然実際のスケートボードの8分の一のサイズのフィンガー・スケートボードのコンプリートが実際のスケートボードのコンプリートより高価な事実だけは驚きを隠せない。ブラックリバー社のプロ用のフィンガーボードは全て手作りで、地元ドイツにて製作されている。その為、値段は決して安くはないのだ。

小さくする事で、更に精密性が求められる。8分の一のサイズまで落とすと、わずかなズレだけで、フィンガーボードの性能は大きく下がるのだ。通常のスケートボードでは気にならないズレも、フィンガーボードでは気になる程の誤差になる。

ブラックリバー製のフィンガーボードとその他の商品は、全てドイツで手づくりされており、7層に及ぶフィンガーボードのデッキを作る事はとても手間暇がかかる。実際に手に取れば、機械で大量生産された物との差は歴然だ。確かに使用する具材(木材など)は通常のスケートボードよりは少ないが、小さいゆえの手間暇に時間が多く取られるのだ。これらの理由から、ブラックリバー製のフィンガーボードは通常のスケートボードと同等、もしくはそれ以上の値が張るのだ。

ブラックリバー社のカタログに載ってた「宇宙の全てが君の手の中に」という一節についてマーティンに質問したところ、「フィンガーボードはスケートボードから進化したものではあるが、まったく違う次元の物。なので私はフィンガーボードを「Microcosm・小宇宙」 と唱えている。エモーションもスケートボードに近いようでもあるが、実際はとても違う物だ」と答えた。

Winkler BS ollie Photo: Elias Assmuth

マニアの世界と思ったフィンガーボードだが、マーティンと話し、実際はちゃんとした一つのスポーツ・カテゴリーと認識できるようになった。フィンガー・スケートボードの世界チャンピオンも存在し、確実に世論にも認知されている。これらは全てマーティンとその仲間達の努力によるものである。

最後に今後のフィンガーボードの発展の可能性についてマーティンに聞いた。

「基本、スケートボードのトリックとフィンガーボードのトリックは同じ。唯一違うのはそれを足でやるか指でやるかの違いだけ。フィンガーボードしかやったこと無い子は、いずれスケートボードに乗るようになるだろう。それから一番大事なのは、実際に商品に触れることが出来るショップが増える事だと思う。有名な選手、名のある選手にショップを訪れて欲しい気持ちはわかるが、一番大事なのは若い子供達なのです。彼らこそが未来だから」とマーティンは答えた。

cw2016spring

この記事はConcreteWave Vol14 No5 SPRING 2016 A SCENE WITHIN A SCENEの抄訳です。