メアリーヒル シーライド・エクストリーム

By Cindy Whitehead

Photos: Ian Logan

「メアリーヒル」。スケートボード界隈でこの名前を口にする際、そこには必ず尊敬の意がある。パイプを得意としてようが、スラロームを得意としていようが、はたまたフリースタイル、もしくはストリートを得意としていようとも、一度はメアリーヒルにまつわる話を聞いた事がある筈だからだ。

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Erni Villanueva leads the charge.

メアリーヒルをスケートした(滑った)と言えることは1970年代にアリゾナ州のパイピス(Pipes)でスケートしたと言えるに等しい。どちらもスケートボードに携わる者には聖地のような場所である。誰もが滑られるわけではなく、とてもつもない勇気が必要だいう事を忘れないで欲しい。

2008年からメアリーヒルを拠点に活動するグループ「Maryhill Ratz / メアリーヒル・ラッツ」。彼らはメアリーヒルを完全に閉鎖し、頂上までのシャトルをも提供するイベントや、フリーライドを幾つも企画し、多くのライダーがメアリーヒルを体験出来る場を提供しています。

8月、「Maryhill Ratz / メアリーヒル・ラッツ」のDean Ozuna(ディーン・オズナ)からメアリーヒルで3日間に及ぶイベント「SheRide / シーライド」への招待が届いた。シーライドとは女性ライダーのみ参加出来るイベントで、3日間、ただひたすら猛スピードで峠をスケートするダウンヒルのイベント。参加選手の何人かはすでにSNSなどで顔見知りであり、彼女達が「男」以上にタフである事はすでに知識として持っていたが、実際に彼女達のライディングを目の前で見るのは初めて。あわよくば自分もメアリーヒルを初体験出来るかも!という淡い期待も含みながら招待を受ける事にしたのです。

今回の「SheRide / シーライド」は、通常のイベント内容以外にも、大きな意味を持つイベントとなった。イベント直前にこの地区で山火事が起き、メアリーヒルの下に住み、毎年このイベントをサポートしてくれる Wolfe(ウルフ家・ファミリー)の家が燃え、彼らは全てを失ってしまいました。「Maryhill Ratz / メアリーヒル・ラッツ」は長年サポートしてくれたウルフ家を今度は逆にサポートするべく、今年の「SheRide / シーライド」を女性のみの参加可能に限定せず、男女共に参加可能にしてウルフ家の募金を集うことにしました。

メアリーヒルに到着した私は、すぐに現場に漂う1970年代頃のような暖かいコミュニティーに包まれた。何も考えず、ただ楽しいからスケートボードに乗り、毎日を楽しんだあの頃にタイムマシンで戻れたような感覚を得ました。

1970年代のスケートボード・シーンを知らない方達には映画「Almost Famous」か、ウッドストック(音楽イベント)に匹敵するような感じと説明すれば判るでしょうか?食べ物、道具、手袋、テント、水など、それぞれが持ち寄った物を分け合い、共に助け合いながら楽しむ。唯一違うのは主役がミュージシャンや役者ではなく、スケートボーダーというところ。

「SheRide / シーライド」に参加した女達の中には、全米中から車、または飛行機で会場入りした人もいれば、遠くカナダやオーストラリアから来たライダーもいました。中でも目に付いたのはコロラドから来た「Girls Gone Fast / ガールズ・ゴーン・ファスト」なるグループで、彼女たちはレンタカーでバンを借り、道中各地でスケートを楽しみながら(その様子を写真やビデオで収め)、「SheRide / シーライド」に参加する女性選手を次々と道中でピックアップしながら会場入り、その様子はメディアも大きく取り上げました。会場入りした彼女達はすぐにその旅でかかった費用のカンパを集うブースを設営していたのも興味深かったしタフだなと思う場面でした。

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Great vibes thanks to the Maryhill Ratz and especially Dean Ozuna and Ali Johnson.

会場ではベテラン・ライダー達が若い(次世代)のライダーをサポートする様子も見られました。15歳の「Nora Manager / ノラ・マネージャー」はボードの上に座ったままでしかダウンヒルを走行できなかったが3日目には立って走行するところまで進歩しました。

多くの女性ライダー達が声をかけてくれた。姿勢に関してのアドバイスを貰えたばかりか、「Cowzers / カウザーズ (メアリーヒルの一番最後のセクション)」からスタートした私にわざわざ同行してくれたり、終始彼女達の心地よいホスピタリティーに包まれた時間を過ごす事が出来た。ダウンヒルは他のスケートボード・ジャンルとは全く違う、一人でも多くの人に体験して欲しいと思います。

ダウンヒルといえば「怪我」。ハイスピードで転ぶので怪我は必ずついてまわるもの。驚いたのはイベントに参加していた女性ライダー達はとにかくタフで、どんなに激しく転倒し怪我をしようとも、泣き言など言わず、緊急テントで手当てを受けてすぐに再び峠の上を目指すのです。そんな彼女達には敬意を表さずにはいられません。

「Maryhill Ratz / メアリーヒル・ラッツ」は企画外の楽しさも忘れていない。2日目には「Dress Run / ドレス・ラン」なるイベントを開催。このイベントはドレスを着て滑降するイベントで、普段レザースーツに身を包んだライダー達がドレスに身を固めダウンヒルを走行します。また、さらに番外編で「Naked Run / ネイキッド(裸)・ラン」というのもあり、これもその名の通り全裸(グローブ、ヘルメット、靴は着用)でダウンヒルを走行するイベントですが、驚いたのは、ライダー達は全裸でも全速力で走行していた事で、メディアへのサービスかと思っていたのは大きな間違いでした。

今回初めて「SheRide / シーライド」に参加し、私は女性ライダー達に完全に魅了された。彼女達は男性ライダー同様、スケートボードをライフワークとしており、スケートボードを極める事に関しては、性別の壁を越えていると痛感しました。

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Candice Dungan one of the Girls Gone Fast.

帰りの飛行機の中、私は疲れていたが同時にとてもハッピーでした。長い間スケートをしている中で良いことも悪いことも見てきたが、今回の「SheRide / シーライド」に参加し、スピリッツ、そしてソウル(魂)を強く感じ、力強く生きてる。このことを肌で感じる事が出来た。「Maryhill Ratz / メアリーヒル・ラッツ」とディーン、そしてアリに心から感謝したい。皆んなありがとう!

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この記事はConcreteWave Nov 2015 Maryhill SheRideの抄訳です。