マイアミ冬季スケートボードミーティング・エクストリーム

by Kaspar Heinrici

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Photo: Jim Harris

椰子の木農園を横目に森の中を抜けていくと、そこには、究極のスピードに全てを捧げた、映画マッドマックスの戦士達の為に、エイリアンが作ったような巨大な建造物が姿を表す。その建造物の名前はホームステッド・マイアミ・スピードウェイ。スピード狂の聖地である。そのホームステッド・マイアミ・スピードウェイを2016年2月26日〜27日、エンジンを搭載したスポーツカーではなく、ロング・ディスタンス(長距離)走行のスケートボーダーが占拠したのだ。

何ヶ月もの間、マイアミ冬季スケートボード・ミーティング用のトレーニングをしてた私は、スキーをしてる時に背中を痛めてしまった。痛めた背中は完治していなかったので、今回のこの長距離レースを完走するのは無理だろうから、一人の観客として目一杯楽しむつもりで、妻と共に、ダラス(テキサス州)から空路でマイアミにやってきた。

今回のこのイベントはSKATE IDSA (長距離プッシュ、スタンドアップパドルなどを統治する国際的な団体)とSKATE FREE (お金のない若者が使える無料のスケートボード・パークなどの建設に関わるマイアミの慈善団体)によるもので、このイベントには長距離ライダーからストリート・スケーター迄、様々なスタイルのスケーターが集結。

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Photo: Marko

ウルトラスケート(24時間耐久レース)からスタートしたマイアミ冬季スケートボードミーティング。24時間もあるから、本当にスケートボード(もしくはパドルボード)を楽しめる人向きのイベントだ。最高の天気と丁寧に舗装されたアスファルトのコース、そしてそこで開催される24時間のスケートボード・レース。これ以上望む事なんてあるのだろうか。過去に何度も世界記録が出たこのコースにて、2016年の今年も沢山の記録が出たのだ。

2016年2月26日金曜日、午前9時に始まったウルトラスケート。この日の為にコンディションを作り上げてきたライダーから、初参加なのに、24時間走りきれると信じて疑わないライダー。彼らの根拠ない自信は、自分たちが13マイルの速度で24時間走りきれる事を疑わない。毎年同じようなライダーが参加するが、どのライダーも午前3時頃(まだレース終了まで6時間もあるのに)、立ち上がる事も出来ず、ピットにうずくまってるのが定番なのだが。

最初のラップ(1周)を終え、ビールを飲み干すロシアの選手。ひたすらポンピングを繰り返し、友達に追いつこうとする選手。もちろん記録を狙いに来たシリアスな選手も多く、自己ベストから世界記録までと、彼らの狙いは様々だ。

10時間ほど経つと、選手達の顔に苦痛が現れ始める。ほとんどのライダーはピットクルー、もしくはサポートチームがいるので、必要なサプリメントの補充、または新しくセットアップされたデッキを用意したりしてもらえるが、サポーターのいないライダー達にはそのようなサポートは得られない。私はそのような選手の為に電解質のサプリを用意してきた。可能な限りの選手達のサポートを終え、私もディナーを食べた後、就寝、この日を終えた。

翌日午前6時、レース場に到着。観客の数は随分減ってたが、コースに出てるライダー達からは、最後までチャレンジを諦めないアティチュードをひしひしと感じる事が出来る。午前9時のレース終了まであと3時間。

レースの展開で、地元マイアミ在住の消防士でありながら、現時点での24時間走行の世界記録保者であるアンドリュー・アンドラ氏が深夜にスパートをかけ、トップグループから抜け出しリードを広げた。

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Photo: Jim Harris

レースが終わる数時間前には、前人未到の300マイル走行記録を叩き出したアンドリューは、そこからもさらに記録を伸ばし、最終的には309.52マイル、約500キロの新世界記録を樹立。

2015年のチャンピオン「エリック・パーマー」の走行も300マイルを超え、最終的には、305.14マイル、約490キロという記録で2位に。3位は285.77マイル、約460キロを走行したカイル・ヤンが獲得した。これ迄の記録がアンドリューの285.77マイルだったことを考えると、トップ3の3人全員がそれを超えたのだ。

そんな大記録が生まれる中、自己ベストを目指す選手達にまざり、アンドリューのお母さんはどの女性選手よりも周回数を重ね、2年連続でトップ。今年は16歳のハリソン・タッカーとの同時フィニッシュ。走行距離は268.64マイル、約432キロ、ストリートスタンドアップパドルのディージェイ・パスカウは約222マイル、約357キロという新記録を叩き出した。

100マイル、200マイル、250マイル、そして300マイルという距離を走行した選手達の味わう達成感は、実際にやった者にしかわからないと思う。私も来年こそは参加・完走し、成し遂げた者にしか味わえないその達成感を味わいたいものである。

24時間走行を終え、9時間後の午後6時からはマーリンズ・パークのバスケットボール・スタジアムの駐車場で開催される「マジック・シティー・メイハム・ガレージ・レース」がスタートする。24時間の走行を終え、ほとんど休まず選手はそのままレースに移行するのだ。

地元テキサスでは違法行為を承知でパーキング・ターミナルなどでスケートボードに乗る身として驚いたのが、エレベーターを降りてすぐに猛スピードで駐車場内を我が物顔で暴走するスケートボーダー達に出くわした事。さらに彼らをドローンが撮影。小さなミニランプまである。

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Photo: Jessica Kassin

地元のDJが音楽をかけ場内を盛り上げていく中、レッドブルガールズはサンプルのレッドブルを皆に配る。これは通常のイベントではなく、ストリート・イベントとスケートボード・イベントのコラボだ。

ミニ・ランプ部門が終わると、私が参加予定のレース部門がヒートアップし始めた。同郷のテキサン(テキサス在住者)達で構成されたチーム ノー・ブル(Team NoBull)と私は痛めた背中が許す限り参加することにした。

ガレージ・レーシングはダウンヒルとは全然違うもの。ガレージ・レース特有のルールがあり、2015年に初めてオフィシャルなガレージ・レースをヒューストンで開催したチーム ノー・ブル(Team NoBull)のステファン・デュメインとガレージ・レースの普及に力を注ぎながら、同時にSkate IDSAの役員も務めるグレッグ・ノーブルが、初めて参加する選手達に丁寧にルールを説明し、レースはスタートした。

通常ガレージレースは深夜、警備員が帰った後にこっそりと行われる。こんな真昼間に堂々とスケートボードを出来る事はまず無い。警備員もしくは警察官に追われ、身分証の提示を求められるのがオチだろう。しかし、この日開催された「マジック・シティー・メイハム・ガレージ・レース」では堂々と駐車場でのレースを楽しむ事が出来たのだ。選手達は多少掴み合ったりもしたが、基本、ルールは守っており、世界中からの参加者がこのイベントを楽しむ事が出来た。

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Photo: Luis Cardenas

Skate IDSAが企画した「マジック・シティー・メイハム・ガレージ・レース」だが、最終的に上位全てがチーム・ノー・ブル(Team NoBull)という結果に終わる。優勝は怪我からリカバリーしたばかりのステファン・デュメイン。2位はテキサス州ヒューストンにあるCarve Skate Shopのスコッティー・シェリダン。3位はテキサス州オースティン出身でチーム・ノー・ブル(Team NoBull)のチーム・キャプテンでもあるザック・シャープに決まった。

女性も検討し、一位はぶっちぎりでアレキサンドラ・メイ、2位にはカレイ・アリス、そして3位はアン・R・キー。マスタークラスではプッシュ・スケーターとしての認識が高いランス・カレーが優勝を決める。

今後更に若者が無料で安全に遊べるスケートボードパークの建設を促進する、と唱えたマイマミの市会理事であるケン・ラッセル。こんなイカした理事を自分の街にも欲しい。若いスケーターに安全でなおかつ無料でスケートボードに乗れる環境を提供する事をスローガンに運営されている「スケート・フリー」。ロングボードをスポーツのみならず、健康的に移動できる手段としてプロモーションするSkate IDSAと、今回のイベントは粋なマイマミ市会理事の計らい、そしてスケートボード界の複合により成し得たイベントなのである。

週末最後のイベントはサウス・ビーチ・ボム・アウトロー・レース。マイアミ州サウスビーチの混み合った道路をスケートボードで横行する、その名の通りまさしくアウトローなレース。主催するアンドレ・ブルーニはアンダーグラウンドのレースであるLDP(ロング・ディスタンス・プッシング)を機会ある事に広め続けてきた人物。前日に24時間走行を終えたにもかかわらず、50名ほどのライダー達が、サウスビーチへと繰り出していった。

トップはジョー・マゾーン。自身のヘルメットに装備したカメラでレースの全てを記録した映像は本人のfacebookアカウントで見られる。街中での走行故、ギリギリで車との接触を回避出来た場面もあり、実際にいくつか車との接触もある。このようなスリルのあるスケートボーディングが好きな人達には十分満足されたのではないかと思う。2位でフィニッシュしたのはニューヨーカーのカイル・ヤン。3位には地元マイアミのタイ・ダイヴィス。

今回マイアミ冬季スケートボード・ミーティングに参加して確信出来た事は、ロングボードとスケートボードのコミュニティーがとても力強い事。ベテランは限界を更に伸ばし、若い世代にもそれらへの参加を募る。選手同士がお互いを助け合いながらコミュニティーが築き挙げられてるのを感じる事が出来た。

今後もスケートボードそしてロングボードのコミュニティーは、社会から爪弾きにされた連中から、スケートボードを愛する人達など、このスポーツを心から愛してる人々達により前に進んでいく事だろう。マイアミ冬季スケートボード・ミーティングでその事を確信出来たのは大きな収穫だ。

cw2016spring

この記事はConcreteWave Vol14 No5 SPRING 2016 MIAMI WINTER SKATEBOARD CONFERENCE の抄訳です。